好きだと自覚してからは日々が早かった。
授業が始まれば多少落ち着くと思っていた自分の中身はどうやら相当タチが悪いらしく、悪化の毎日である。
ああ、今日とてそうだ。
彼が友人と楽しく談笑している(微笑ましい)
彼が講師室に質問にきては講師の話を真剣に聞いている(受験生には頭が下がる)
僕の日常には彼がいて、彼の日常には僕は偶に、授業があったときと質問があったときだけ、いる。
解っていたことだけど、
解ろうとしていたことだけど、
僕はその度に彼と同じ受験生だったら、と彼の友人を羨ましく思うし、僕が違う分野も教えられたら、と質問された講師を羨ましく思う。
恋は心の病とよく言うけれど、本当だと思ったのは初めてだ。

「先生」
ふいに彼の声がして体が強張った、いつも通り、僕は先生で、先生の対応を、
「少しいいですか?」
彼の前では自覚してしまった中身をしまいこんで、先生でいたい、先生と呼んで欲しい、
「はい、なんでしょう」
悪友に、お前人当たり良いよな、その笑顔が眩しいよ、と太鼓判を押されている、大丈夫だ。いつも通りできる。
「先生の大学について色々話を聞かせてもらいたいんですけど」
「星馬さんは第二希望がそうでしたっけ、」
たしか、と答えればそうです、笑った。ああどうしよう、不意打ちだ。
「オープンキャンパスとかには行ってるんですけど、普段の感じ聞きたくて」
「なるほど、そうですね、楽しいですよ。駅から結構近いのも有難いし」
食堂のランチが美味しいんですけど、ひとつ凄く重いデザートがあって、100円なんですけど、破壊力が強いというか、
「甘いものは好きですよ」
「なら一度チャレンジしてみた方がいいですよ、重くてげんなりしますが、暫くたつと何故かまた食べたくなって、またげんなりするっていう繰り返しに陥りますけど」
すごいデザートですね…、ああ、良かった、興味を持ってくれたようだ
「今度遊びにきて下さったら案内しますよ」
「たのしみにしてます」
笑ってくれた、よかった、


「気持ち悪い」
心底嫌そうな顔で悪友はこちらをまじまじと眺める。失敬な。
「お前のそのオーラが気持ち悪い。超ピンク背負ってんですけど。超花飛んでんですけど」
「オーラなんて見えたんですか、へえ知らなかった」
そんな顔されたら食べ物がまずくなるんですけど
「恋してますオーラが見える…ああ気持ち悪い」
「失敬な」
「相手誰だ、生徒か」
「……………………………」
ビンゴかよ、とため息が聞こえた。
「まずいだろう、それは」
女子高生がどうとか言ってた男の台詞だとは思えない。
「わかってますよ、そんなの」
別に生徒とどうこうなりたいとは思ってません、
ほう、
「ならどうしたいんだ、お前」
「別に…、どうも」
好きだと自覚した。
とくに笑顔がすきで、笑ってくれると体温があがる、幸せになれる。
でも、それだけで、
それだけで満足だから、
先生と、生徒、だし
「メールアドレス聞くとか2人きりになるとか告白するとかないのか」
「メールアドレスを聞くのは職権乱用だし、2人きりになる時間があるなら勉強頑張ってほしいし、告白なんて只の迷惑です」
ちゃんと割り切って、先生なのだから
「それに、」
「それに?」
「彼からしてみたら、好意の目で見られてるなんて気持ち悪いだけでしょう」
不快な思いだけはさせたくなくて、
だから、距離を保ちたい、先生と生徒という防波堤があれば、心配なんかない、
彼だって、きっと先生としてずっと見ててくれる
「ふうん」
興味が覚めたと言わんばかりの顔をして悪友は席を立った

「ならもっと表情が繕える様にでもなっておけ」


好きだと自覚してからの時間の速度についていけない。
もうすぐしたら会えなくなるというのに、今日もまたこの波にのまれている、
好きです、だから、嫌われたくないんです、
チャイムが鳴る、けれど席を立つ気は起こらなかった。











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