「まるっと丸一日中バイトなのか」
「まるっと丸一日中バイトですよ」
電話越しに聞こえる悪友の少し驚いたような声に思わず苦笑した。
受験生相手ですからね、こちらも気合いれないと、といえばご愁傷様、と返すあたりが良い性格をしていると思う。
「一日中女子高生と一緒ということか」
「はは、相変わらず頭沸いてますね」
魅力的だといわんばかりの様子に、こいつはすぐに首切られるなと確信した。



「どこか解らないところでも?」
講師室にテキストとノートを持ってきたということは勿論どこか解らない問題があるということだ。
だから聞いた。いつぞやのデジャヴのような気がしない訳でもなかったのだが。
「いえ、そういう訳でもないんですけど」
おや、どうやら違ったらしい。十中八九そうだと思ったのだが。
「デニス先生が大学の資料を下さるそうなので、」
授業帰りに寄ったんです、ああ成る程。
「今ちょっとデニス先生居ないので……今日僕の授業ありますよね、デニス先生から預かっておくのでその時にでもどうでしょう」
いいんですか、と少し申し訳無さそうにする姿が新鮮だ。あの悪友もこのくらいの可愛げが欲しい。
ええ、構いませんよ、と笑えばありがとうございます、と笑った。ああそういえば笑った顔をちゃんと見るのは初めてかもしれない。
「どうかしましたか?」
「いえ、」
なんでもないですよ、ほら、もうすぐチャイム鳴ります。
「それじゃあ失礼します、資料よろしくお願いします」
パタパタと掛けていく背に手を振ってみた。学校の教師ってこんな感じかな、と少し羨ましく思ったことは胸に秘めておいた。



「高校生って、いいですね」
「どうしたとうとう女子高生に手でも出したか」
「素直というか可愛らしいというか」
「ほー…」



後によくよく考えてみればこの日以降の電話の押収は恋する男子学生の恋模様を逐一報告されているようなものだったんじゃないかと気づいた頃はもう後の祭りだった。





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