「冬休みの予定は?」
「そりゃもう始終バイトですよ。稼ぎ時ですから」

時々この心友(悪友とも読む)が解らないと思うのはこんな時、
師も走るという年末、冬季休業前のいらん試験期間が迫ってくる大体一週間半前。
準備の良い奴は夏季休業後からの授業の復習をせっせとこなし、且つ明日の語学の予習なんかもしているだろう最中。
(勿論自分はこの部類に属さない)
落ち葉もカサカサと淋しい音を立ててアスファルトを舞い、時折ぴゅうと北風が吹いては防護されていない顔やら両手やらを
遠慮無しに乾燥させていくというのに、だ。
こいつは何が楽しくて温かい校舎の中ではなくわざわざこの寒空の下でせっせと読書に勤しんでいるのだろう。
居た堪れなくなって近くの自販機で買った缶コーヒー(勿論ホット)を差し出すと「明日は雪でも降りますかね…困ったな、明日は荷物が多い予定なんですが」等とぬかしやがる。
まったくなんて可愛い悪友だろうか。(愛しすぎてその後頭部に鈍器との運命的な出会いをさせてあげたくなるよ)
「何読んでるんだ」
「お姫様とかぼちゃの馬車について少々」
「ほう、桃太郎か」
「はは、そうです」
貴方もたまには読書でもしてみたらどうですか、まったくこいつは私が読書家だと知っての狼藉だろうか、それとも貸した本を返せとの催促だろうか、確実に後者だな。
「こんなとこで読書とは随分暇そうだな」
「まさか、1分1秒を追われる身ですよ」
「そうかそれはそれは。大切な1分1秒を私の為に裂いてくれているだなんて涙が出てくるよ」
「はは、そんな時間があったなら僕は確実に睡眠でも取りますね」
ああたしかにお前は一度たりとでこちらを見ようともしないな、それほど読書に夢中か、嫉妬を通り越してむしろ是非ずっとそのままでいて頂きたい。
カバーで表紙を隠された本のページが捲られる、視界の端にそれが入ったがどうお世辞を並べ立ててもお姫様とかぼちゃの馬車は出てきそうにもない。どう見たとて数字と図形の羅列にしか見えんのだが。ああ、こいつにはきっとこれがお姫様とかぼちゃに見えているのだな、そうか、なんて夢のある心友なのだろう!是非とも眼科に行ってくれ。
「そろそろ冬休みだな」
「そうですね」
「その前に試験だな」
「そうですね」
「語学のノート貸してくれ」
「いやですね」
「社会学のノート貸してくれ」
「いやですね」
「…そろそろ冬休みだな」
「そうですね」
パラリとまたページが捲られるが相変わらずお姫様とかぼちゃの気配はない。
ああ…魔法使い、私に素敵なドレスをおくれ!ああ…かぼちゃの馬車、私を図書棟に連れて行っておくれ!
ああ…そして私は一際大きい辞書を手にしよう。
ああ…そしてその背表紙の角で今私の隣で読書に耽る心友の後頭部を強打するのだ。
ああ…!心が晴れ晴れとするに違いない!
「冬休みの予定は?」
「そりゃもう始終バイトですよ。稼ぎ時ですから」
ふう、とため息を吐くが気落ちしてのことでは無さそうだ。そう、どちらかというと感嘆のものに近い。
「バイトなんてしてたのか」
「してますよ。冬休みに入ったら休みは年末年始くらいしかないですね」
「ほう」
「まあバイト代も入るし、復習にもなるし、バイト先近いし、」
いいんですけど、と続けるがぼそりと「スーツはめんどいけど」と漏らす。
ホストでもやってたのか。
「違いますよ」
「心を読むな心を」
「なら顔に書かないで下さい」
「残念ながら筆記用具は持ち合わせていないな」
両手をプラプラさせて「ほら」と見せれば、今度からは脳みそも持ち合わせておいてくださいね、だと。失敬な。
「予備校の講師ですよ」
だってほら、あれってスーツ着用必須でしょう?そういえばそうだな。
「女子高生パラダイスじゃないか」
「良い思考ですね。面接で落とされますよ」



当たり障りなくて結構楽しいですよ、と吐いた心友が百面相をする毎日を拝むようになるのは年明けの話。
ああ、神様、奴に魔法使いとかぼちゃの馬車を与えてやっておくれ。













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