「外に出ないか」
突にかけられた電話に受話器越しに小言を言った後、自宅とインターナショナルスク−ルとの間にある児童公園へと向かった。
春の匂いが鼻腔を擽る。咲き始めた桜の花弁は夜空に綺麗に映え、風が頬を撫でる度その身を翻して舞い散っていた。
どこか高揚する心を押さえつけてゆっくりと地面を踏みしめる。
突然の呼び出しに浮かれている様で、…不本意だ。
夜空を見上げて溜息を吐いた。ほんの数日前までは溜息は白く染まっていた筈なのに。そう思うと季節の移り変わりはとても早いものなのだと実感する。
嗚呼、そうだ、この高揚は春だからだ。春は無条件で人を和ませる。温度や色や空気が優しい色をする。だからだ。
決して彼に呼び出されるからではない。そう強く思い込んでまた一歩と歩を進めた。






「悪いな」
「そう思うなら呼び出すな」
出会い頭に抱きしめられたので、腹にストレートを送る。
急所に入ったのか咳き込んで後ろに少しばかりよろけた瞬間、距離を取った。
抱きしめられるのは好きじゃない。口付けをされるのも好きじゃない。甘い言葉も優しさも全部突っぱねて、拒絶しなければいけない。
返せるものなど何一つとして無いのだから。
「それで、何の用さ」
用件を思い出したように彼が笑う。その笑みがいつも異常に柔らかくて、思わず背を向けた。
「宇宙を見ようかと思って」




「は?」
いつの間にか背後から抱きしめられる形となり、隙あらばいつでも肘鉄をお見舞いしてやろうと思案するも、宇宙、の言葉が妙に引っかかって実行できずに居た。
「夜の空の色は、宇宙の色をそのまま写して…というより宇宙そのものと言うべきかな」
彼の夢の先、とてつもなく大きい、大きいという表現が当て嵌まるのかさえ解らない場所。
その中に自分は居て、でも決して届くことの無い彼の夢の場所。魅ているもの。
「あそこが俺の行く場所」
その声は嬉々としていて、穏やかで。
「レツに知っていて貰いたいじゃないか」
今、微笑んでいるに違いない。
「………知ってるさ。君は宇宙飛行士になるんだから」
精一杯の不機嫌さを装って、君の向かう世界を見上げる。
手を伸ばせば、星に、月に、届くかもしれない等と考える予定は無い。それは恐ろしく遠く、決して手にいれられるものでは無いのだから。でもそれは自分のものさしであって、彼のものさしでは無い。彼は、星に、月に、届く人だ。星を、月を、手に入れる人だ。
「なあレツ」
「………何」
「好きだよ」
「………そう」
「ああ」
君は夢も星も月にさえも手を伸ばして、いつかそれを手に入れる。
今、その手が、腕が、君が、僕にベクトルを向けている事が不思議で、堪らないんだ。














昼間の空の色は太陽?が何ちゃら〜と授業でやった筈なのに、全部記憶からすっぽ抜けました…ホワイ!



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送